広々とした牧草地に寝そべったり、草を食むホルスタイン。
映画やドラマ、TVCMなどで定番の北海道の情景です。
のどかで、ゆったりとした、憧れを誘うシーンです。
「それが、多くの人が思い浮かべる放牧のイメージでしょう。
牛屋さん(酪農家)の世界でも、そう思われていますね」
最初は、この辺りでもそうだったと話すのは、宇野剛司さん。終戦直後の昭和20(1645)年に設立された天塩町の宇野牧場。平成17(2005)年に先代から引き継いだ3代目の牧場主です。3人の兄弟が家を出たため、自分が継がないと途絶えてしまう。大学で酪農を学び、卒業と同時に牧場に戻ってきました。
「牛を固定しないフリーストール方式で飼育し、ミルキングパーラーを導入してと、大学に入るまでは
現在、一般的な酪農のスタイルを考えていました」
けれども、たまたま入ったゼミが宇野さんの考えを変えました。ゼミで学んだのは、ニュージーランドで行われている放牧酪農でした。日本で主流のアメリカ式の酪農とは、根本から異なっていました。
「日本よりも格段に安い乳価にも関わらず経営が成り立ち、かつ、安定した所得をえながら、しっかりと休暇をとっている。
その方法を学んでやってみたいと、覚悟を決めたんです」
ニュージーランドの放牧では、牛は1年中、外で暮らしています。広い牧草地を区切り、牛が好んで食べ、栄養価も高い状態の15〜20cmに育った場所に牛を誘導し、食べ尽くすと次へと移す。それを繰り返します。人手がかかるのは、牛を誘導する時だけ。同時に、草が生えない冬場に集中して繁殖を行います。
「種付け後は、約2カ月間、搾乳を行わないため、牛を休ませながら、私たちも休暇を取れるというわけです。
現在、当牧場でも、同様の方法を取り入れています。」
この放牧酪農を行うために、最も大切になるのが土づくり。良い土をつくり、良い草を育てることが必須になるのです。牧草地を均し、土壌を整えることが大変だったと宇野さん。
「単なる土壌改良ではなく、オーガニックの草づくりに当初からこだわっていたので、なおさら手間がかかりました。
自分も飲み、食べるもの。だから健康であることを目指したんです」
放牧によって牧草のみで育てることをグラスフェッドといいますが、この牧場ではグラスフェッドである上に100%オーガニック。栄養価の高い草を食べた牛の牛乳は、濃厚なうえ、健康そのものです。
この生乳をふんだに使ったスイーツも魅力的です。
「父がよくつくってくれた、搾りたての生乳による牛乳豆腐をヒントにした『torokette UNO』は一番の自信作。
プリンでもヨーグルトでもない感触を味わってほしいですね」
同じく牛乳豆腐がベースになったパンナコッタ、ヨーグルト、アイスに、宇野牧場でしかできない牛乳。新たに加工工場を設け、チーズづくりもスタートさせる予定です。
「AIを使って牧草を管理したり、自動搾乳を充実させたり。営農作業に余裕を持たせ、さらに品質を高めたいですね。
もっと楽をしたい、というのも強い思いです 笑」
牧場に併設して、カフェも設けられています。国内でもまだ珍しい酪農スタイルを、見学に行くのも楽しそうです。